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命の授業

命の授業

渡り廊下の紫陽花が満開のとき、『ヤゴ救出大作戦』が行われた。
息子が通う小学校プール開き直前、残り水がトンボの産卵場に、ヤゴが大量に発生していた。
このまま、水を抜けばうん百匹のヤゴ達の命は無い。
子供達が本気で水の中を見つめていた。

命の授業_01

毎年、小学3年生が当番『命の授業』として救出大作戦は行われている。
ググってみると、この時期、全国小学校で同じような行事があると知った。
私の幼少期にはそのような記憶は無い。
ヤゴと言えば専ら川か田んぼだったろう。
虫取りは弄んでいただけで、観察していたのか危うい。
生き物を見つけ、ドキドキしていたことだけはよく覚えているが、
助けるために捕まえた記憶など無い。

昨今、不穏なニュースを目にする事が多いので、
公開参加型『命の授業』でこのような体験は良いなと共感していた。

その日のうちに、救出された大小8匹のヤゴを息子が持ち帰った。
そういうことなのねと、フンワリとヤゴの飼育が始まった。

調べてみるとヤゴは生き餌しか食べないらしい。。
赤虫というものがあるらしい。。
それは、釣具屋さんに売っているらしい。。
らしい、らしいで見切り発車。

命の授業_02

兎に角、餌だと日が沈みかけたころ、慌てて車を走らせた。
うっすらと記憶していた大通りの釣具屋さんが、まだあいていた。

冷蔵庫から出された名刺サイズのチャック付きビニール袋に、
よく湿った数枚の新聞紙がキレイに畳まれ入っている。
丁寧に包みを剥がしてみると、真っ赤な10ミリくらいのミミズのようなものが、
動かず、うじゃうじゃ、ぎっしり挟まれていた。
店員さんに、『この赤色はヘモグロビンなんですよ。』と気さくに渡された。
心の中で少々動揺したが、息子の手前、取り乱す程では無かった。

冷蔵庫の中に置いてあれば、仮死状態で水に入れるとクネクネ動き出す。
この奇妙な生き物を毎日ヤゴの目の前に落とし、クネクネ、、パック!ということになった。
このクネクネにも親や兄弟がいるだろうに、
己の赤を周りの水にうっすら広げながら、パクパクされるのだ。
目前の優先される命。投込む生き餌の理不尽。
人間だって切り身の魚を買っているだけで、
商品になる前は海の中、親兄弟友人恋人なんかと楽しく泳いでいたはずだ。
今更綺麗事をと念仏をとなえた。
矛盾も孕みながら、息子と一緒に飼育は続けた。

命の授業 画 幸田森

水換えは、幸い近くに沢があったので、綺麗な湧水を週に1、2回ペットボトル3本汲んできた。
そこで、沈む木や水草、タニシなども手に入れた。
タニシは水槽の壁を掃除する。。と聞いていた。
それはある面正しいが、壁の汚れは結局地面にフンとして落とすのだ。それも、盛大な量。
汚れの変換移動。奴らは決して掃除屋じゃない。ごみ受けの無いルンバだ。
スポイトで、毎日、人間がその盛大な糞を吸い取りお掃除をするのだ。
この水槽は自然界ではないので仕方ない。
植栽も含め、ビオトープに興味が湧いていたが、当面急場凌ぎでいくしかない。

水は汚れると半分程度だけ交換。水温なども気になり、
急激な環境の変化に慎重なつもりだったが、中型の2匹のヤゴが早々に亡くなった。
プールからうちのベランダへ、無理もないことだ。

それでもある朝、一番大きなヤゴが、羽化用に突き出た棒の先端に抜け殻となってしがみ付いていた。
動かない抜け殻なのに大きく開いた口を見ていると、抜け出した成功を祝い高笑いしているようだ。

高笑いヤゴの抜け殻

この者達は世話をすると旅立つ命なのだと実感した。
飛び立つというゴールは今迄経験のない演出だ。
こいつは今頃、何処を飛んでいるのか、、。恋人と出会い子孫反映?
或いは天敵との遭遇?抜け殻1つで案外興奮するものだ。
この水槽で我々はフライトを誘導する管制官の役回りだろうか。
命の授業らしくなってきたと思えた。

が、しかし、、酷暑と呼ばれた夏が来た。
色々と策は練ってみた。
すだれ、北側玄関先での飼育、水を増量し水温をコントロールなど日々対応。
クネ、パクも続け、一番小さなものも2ヶ月ですっかり大きくなっていた。

そんな頃、水中で2匹亡くなり。
しばらくして棒の先端にしがみ付いたものが再び現れた。
旅立つのか!と期待した。が不安も半分。
時計の針が回る分、おかしいな、おかしいよ、と、、。
数日が過ぎ、、、やはりダメだ。生きている気配が感じられなかった。

残り2匹に、、。

1匹は昨日まで元気にクネクネをパクパクしていたが、突然亡くなった。
残り少ないなか、順調そうだっただけに落胆した。数日後の朝。

最後の1匹が、棒にしがみつき、背中を少しだけ出し、眼の色もトンボとわかる状態で現れた。
地味なヤゴの衣装をまとってはいることもあり、中身の色がギャップで鮮やかに感じられた。
羽化中のヤゴ、トンボの目で私と目が合った。

トンボの目

微妙なときに見ちゃいけないんだろうな〜と思いつつ、
不思議な質感で生き生きとした美しい目に、しばし見惚れた。。
だが、今回までも、ここまできているのに、
その目の色がゆっくりと鈍くなっていくことで、
亡くなっていく時間を見つめることとなっていた。
羽ばたかせてはやれなかったのだ。

8匹中1匹だけが飛翔に成功。
息子のクラスで2ヶ月飼育していた人はいない様子だった。
命はやはり難しい、大変なものだ。
矛盾かつ理不尽で虚しさを残した。

生き残った冷蔵庫の赤虫。それから水槽のタニシ。
近くの公園にある溜め池に放す為、息子と自転車で向かった。
鯉や鴨もいたが、一応自然に近い広い環境に返ってもらう。
あんなにいた赤虫の数は僅かになっていた。
ここまで生き残ったものには強靭な運があるはずだ。
勝手なことを言っているのは承知だが、元気に暮らしてほしい。
ボロボロの新聞紙の中から彼らを出し池に放した。
赤虫はユスリカという血を吸わない蚊となって羽ばたくらしい。。
公園などで人の頭上に蚊柱をつくりブンブン飛ぶあれだ。
『あれ』とて命。。
今度会うときは、何時ものようには邪険にはできないだろう。





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